機航化宇宙兵グラージェス

 

一章 ファーストコンタクト01

 

 

 ロブ ウィラーは苛立っていた、一週間以上もの航路として、火星地球間の退屈な狭い船室に押し込まれた毎日からスコットランドの地方によってはジェラートの風味の効きすぎた故郷名産のジェラートの味に未だ辿り着く術など見つからなかったからだ。

 

地球と言う、人間にとってはベースとなっている生活環境も、たまたま科学に堪能であり、それを職業としていく決心をしたことから、冒険家なら望むであろう、火星への一か月以上を要したツアーに好き好んで参加したわけでもなく、その行き着くところが、本来苦手としている宇宙生活の延長と言った事態は認めたくない現実だった。

 

 

フォログラフィックパネルを開いた、ロブは手のひらに乗るそれら、シュガレットケース程度の大きさと重さのチタンの小箱から、愛しき女性の気遣っているような憂いを含んだ顔を見た途端、彼は、ちょっと気分的に若返ったような気がして、ちょっと一時的に気をよくして、上ずった、ちょっと頓狂な声を挙げて、勢いに任せて話し始めた。

 

「苺の収穫は今年も不作かぁ…」

「あら、今年は、気温調整シールドが発行されたばかりの年ですわ…それに、ロブ、貴方の食べる予定のジェラートは、3年前に収穫した実り豊かな果肉が、センターに健在ですわ…」

「冷凍とか、クローンはよしてくれ…」

 ロブはやや機嫌が悪くなっていた。

 普段は、ジェイミーに不満など吐いたりしないロブだが、彼の科学アレルギーと宇宙嫌いは折り紙つきと言うことは、彼と付き合えばすぐにわかることだった。

 

 

ジェイミーとは7歳違いだ、中年に差し掛かろうとしている、ロブはジェイミーと恋人未満、友達以上の関係にナーヴァスに接していた。

彼の紳士的対応は、女性にはやや古風に伺える。

実際、ジェイミーはホントは荒々しい男が好きだったし、ジェイミーの手料理をいつも気に入っていたロブの存在として、ジェイミーにとっての認識はあるものの、科学ジャーナリスト、科学関連のエンジニアとしての志望者の肩書は、世間的にはエリートとして認識はされるものの、彼女にはこれと言って、興味のひく問題でもなかった。

 

「マーシャニウムについて、何か進展は…?

「いいや…ない…」

ホログラムモニターを通しても、ロブの失意に満ちた態度は明らかだった…

彼は、不可解な未知の鉱石、火星で数年前に発掘されたマーシャニウムの存在に懐疑的だった。

マーシャニウムの有機素材並みの、鉱石としては逸脱した、肉体のうねりのような、柔軟で、温かみのある、しかもそれでいて鉱石としての特性をきちんと持った、材質の研究で、調べて調べて分析すればするほど、その存在の不可解さは誰にも理解できるものだ。

 

しかし、それらの意味と、何故そういったものが存在できるのか、頭のいい探究者は、そのことに捉われず、無視して、スルーして別の研究素材を探すだろう、それらより

出来上がった背景、関わりのある存在について意図したところ、熟慮したところ、地球侵略を図る宇宙人、そういった頓狂な仮説が浮かび上がってくるくらいだ、

 

 

 

 

 

 

 マーシャニウムは火星の衛星フォボスの地下地層帯から発掘されたとき、その発見者は詐欺師扱いされたくらい、とてつもなく奇妙で信憑性に欠けるほど突飛な事柄にうかがえた。

 マーシャニウムは既に10年近い研究期間を費やしていても一向にそのデータから得られる事実と言うものは人類にはとてつもなく理解のしがたいものだ、

 鉱石と有機体、そういった両方の特性を持った材質が、この太陽系の隣の惑星から発掘され出したのだ。

 遥か太古、何らかの意図により埋められた、そう仮定して、その張本人の存在について仮定しようが見当もつかない。いっそのことそれらマーシャニウムが最初から発掘などされていないほうが、現実問題として手間の省けたことなのかもしれない。

 マーシャニウムは鉱石でもあり、生体でもあるのだ…しかも、それらの存在意味、それらの糸口すら全く人類にもたらさず、こうも近い隣の惑星から見つかってしまうかのような怪事件は、オチにさえならない…

 しかも、マーシャニウムは太陽光をエネルギー代謝としてエネルギー代謝に替えてくれるシステムでもあるのだ…

 

 

 ロブの手のひらの、シュガレットケース状の、精密通信システムが、突然勢いを持ったかのように、二メートル横の船室の壁にぶつかり飛ばされ、そして、機能を停止させた。

 

 ピリピリと発火して焦げた匂いをさせて二度と使えぬガラクタと化したのは誰の目にも明らかだった。

次の衝撃が船体を揺さぶり、ロブは愛機のぶつかった反対側の壁にぶつかり、胸部に激痛を感じて気を失いそうになった。

 

 

 船内の、緊急アラームが鳴り響く、ロブは、何が何だか状況をつかめずにいた。

 

 さらに激しい振動は立て続けに襲って、船内の散らかりようを手伝って、ロブは抵抗する意志すら無意味に感じながら、ロブは這って、船室の外の廊下に出て、この、火星地球航路の客船のブリッジに向かおうとしていた。

 

 船内は本来、回転遠心重力で、0.7Gの重力が効いていた。

 アルキメデス19という200メートル程度の旅客航路船は百足のような長い船体の筒状のリアを軸として、船室の房が枝のようににょきにょき生えていて、ゆっくり回転して微弱な重力を全体として回転して発生させていた、

船体の回転は止まり、船室の照明が非常灯に切り替わる、そのあと、息苦しくなって、無重力と化した船体は、再び振動でピリピリと震えている。

 

 

 無重力コルセットの内側から、肋骨でも突き刺さった肺から吐血したロブは、咳き込みながら助けを求めていた。

 「ウィラー博士…通路の脱出カプセルを起動させてください…」

 あわてて聞き取りにくいほど早口なアナウンスで、火星地球航路のベテラン機長は耳元で、キャッチホン越しにそう告げた…

 

 20基以上もの脱出カプセルが別エリアから発進したらしく、隣のユニットに繋がる隔壁ゲートを開けようとしても、反応しない。

 

 ロブは0412と書かれた非常カプセルに身をかがめて、押し込むと、身体をうねらせた衝撃から、一層の激痛に胸部を手で押さえて、挙げた悲鳴と立て続けに、カプセルは射出音と共に、小さな窓から、遠ざかって行く旅客船と、いくつもの脱出カプセルがパニックでも起こしたかのようにぶつかりあったりしたものや、自ら爆発していくもの、小さな窓から伺えるちょっとした地獄絵図はやはりデスクワーク主体の科学エンジニアには不向きなアドベンチャーだった。

 ロブのカプセルは難から逃れて、そうして、何もない宇宙空間に吸い込まれていくように、その先に月面が大きな口を開けて構えるモンスターの様な奇怪さで迫ってくる。

 「地球まで、辿り着いていたのか…」

 ちょっとした安堵感を持ってロブは一時的に鎮痛剤より効果のあるであろう眠りに就こうとしていた…

遠くで光った閃光は、何だか遠ざかった今までいた旅客線の爆発であると考えたくもなかったが、その後の光景に、ロブは目を疑った…

 

 今しがた大爆発でもしたであろう、方角から、巨大な昆虫のメカニックでもあるかのような、大きさでもこのカプセルを凌駕する、戦闘兵器のような、ごつごつした表面装飾を持つ、青銅色の機械の飛行物が、数体、飛び去って行く。

 

気を失いそうなロブは、網膜いっぱいに目を開いて、そうして、コンタクトレンズ状の、視野の画像記録システムを作動させ、ロブは今の自分の視野に写る信じられないものを必死に記録映像として録画していた、

旅客線の粉々の破片が船体に突き刺さり、緩い振動と共に、激痛も胸部を襲う…

 

このままいけば、カプセルは月面に叩きつけられる、どのみち命はない、

 

ふわっとした感覚と共に、赤い巨大なラインの装飾された長いアームに固定されて、カプセルは連合宇宙軍の救助メカに抱きかかえられたのを感じながら、ロブは気が遠くなっていく感覚に必死でしがみついていた。